●好きにならずにいられない!―岩代図書館
今日も気ままな旅の空…というわけではないのだけれども、胸を張って「生活」と呼べるほどでもない、いわしろでの毎日。ここに来てはや1年がたちましたが、独居ということもあって今もまだ「旅行以上。生活未満」の…どこかポツンと所在ない感じ。根なし草っぽい自由さと同時にある心もとなさは、きっと移住者特有の感覚。けっして悪くない。とはいえ、どうにも心もとないのです。とくに休日。
これまで5都県、20回近い転居をしました。新しい街で新しい生活を築く過程は、真新しい座標に大小さまざまな色のドットが描き込まれていくようです。
最初は最寄り駅と住まいという2点だけがあって、その2点を結ぶ濃い「線」が基準。だんだんとその線の上下左右(東西南北)に1個、2個、3個…と点が描き足され、散歩コースなども合わさって、無数の点と線からなる生活圏という「面」ができていきます。
人によって異なるとは思いますが、はじめのころのドットは銀行や郵便局や公園、そしてコンビニやスーパー。そこに本屋や花屋やパン店やカフェなどのドットが足され、やがて行きつけの場所、気に入りの場所が加わり…彩りが増えていきます。私の場合、転居から少したつと必ず加わるのが、図書館・美容院・歯科医院。この3つが加わったら、やっとその街の住人になったという感覚が生まれます。いわゆる生活感をもてるのです。そこに友だちの家とか待ち合わせ場所とかもあれば、この座標にはいっそう愛着が生まれます。
いわしろの1年目も、まっさらな座標からスタートしました。ただ、いわしろには駅がなく、繫華街はもとより商業やレジャーの施設もほとんどないので、ここで私なりの生活圏・行動範囲を広げていくにはかなり日数がかかりそうです。
遠いスーパーへは、ふだん週1回ほど食材の買い足しに行くだけです。友人と休日に行き来することもあまりなく、「今日は地域調査に行こう!」と張り切って出かける日を除けば、わざわざクルマで出ていくほどの用事もありません。コロナ禍とガソリン代の高騰を言い訳に、遠出を避けて過ごしています。
そんなつれづれ暮らしの私の味方が岩代図書館です。家じゃなく、どこか別のところにいたいとき、なんとなく所在ない感じ…というときに行ける素敵な場所。図書館は心の避難所にもなっています。もちろん安全だし、お金もかかりません。
そしてもうひとつ。岩代図書館に行くのには大きな目的があります。なんとなんと、晴れた日には、図書館の窓からうつくしい安達太良山や吾妻連峰がくっきり見えるのです。とくに冬から春の、青空をバックに雪を戴く連峰は神々しいことこの上ありません。遅い春、山の前景となる桜並木が満開になれば、ますますみごとな景観です。
雑木林のような図書館の庭もまた素敵。春の新緑、夏の木漏れ日、秋の紅葉を眺めながら散策したり…どれも捨てがたい岩代図書館の四季です。
この岩代図書館、司書さんや図書館員さんたちがまた素晴らしいのです。いつ行っても親切で温かい対応。館内の雰囲気がとてもよくて、本や視聴覚素材の見せ方もくふうされています。私は、1回行ってすぐ岩代図書館のファンになっちゃいました。
家の近所で好きな本を探せる、借りられる、なければ取り寄せてもらえるという環境はもちろんありがたいですが、最近は、ふつうの暮らしのなかに図書館があるというのはなんて恵まれていることか…と、しみじみ幸せを感じます。そのとき脳裏に浮かぶのは、アフガンやミャンマーや香港やウイグル…など。そのほかにも世界の多くの場所で今このときも、人命や人権が脅かされていることに胸が痛みます。
子どもであれ大人であれ、快適な図書館で座り心地のいい椅子に腰をおろして本の世界にどっぷり浸っていられる。目を上げれば自然が織りなす眺望にうっとりとしていられる。なんとありがたいことでしょう。
こんな愛らしい岩代図書館をつくってくださった旧岩代町に、感謝せずにはいられません。当時としてはかなり進んだ考えに基づいて設置された施設なのだろうと思います。
私のいわしろ自慢には欠かせない岩代図書館です。
★都会から移って来る人にお伝えしたいのは……ただひとこと。ぜひ岩代図書館に行ってください。本を探しに。景色を楽しみに。ゆたかな時間を味わいに。
2020年10月からいわしろ暮らし(2拠点居住)。ヨソモノ目線でいわしろの宝探しをしています。
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